どきどきするのはしかたない
下着と服をかき集め、恥じらいも無く身につけた。…こんな態度も、服の着方も、課長はきっと嫌いだ。
バッグを手に駆け出した。掛ける言葉はもう無い。
どうせ、課長はまた…。
追って来たりしないだろうと思った。携帯さえも震えない。
エレベーターで下り、ドアが開いて歩き出した。
一方的でも、これで終わりにしたって事にしてくれるだろうか。
ちゃんとした返事はしてくれなかった。だから納得はされていない…。
でも、私の言いたい事は言った。
あ、…ゴロゴロ言ってる。遠くの空で稲光が走っているのが見えた。雷は嫌だ…恐い。
はぁ…また、雨になるのね。
びしょ濡れになる前に帰らないと…。
パシッと素肌の腕に衝撃が走った。
「…待て、はぁ、…待ってくれ、涼葉、はぁ…行くな」
「課、長…」
腕を引き寄せられて抱きしめられた。
「はぁ…帰らないでくれ、涼葉」
「…課長」
どうしたって言うの、こんな事…。
課長は追って来たりしない人だったじゃない。
問題は後で冷静になってから話せばいい事だからって思ってる人なのに。
…どうして。
ポツ、ポツ、と、大きな雨粒が落ち始めた。
「…雨だ。濡れる。とにかく中に戻ろう」
「でも…」
「早く。早く入らないと涼葉の嫌いな雷が鳴り始めるぞ」
あ、…。
暗くて闇が広がる中、遠くの方で明るく鋭い光の筋が空から刺さらんばかりに伸びていた。
「ほら、早く。とにかく一時退避だ。濡れてしまう。…大丈夫だ、さあ…涼葉」
「…でも」
あんな後で…。
「大人は大人の対応が出来る。俺は出来る。早く。こうしている間も濡れてる」
…雨が身体を叩いていた。
「…はい」
強引に手を引けば、中に連れて行ける。動けない程、抵抗していた訳ではなかった。
課長は私の意思で動くのを待ち続けたんだ。
いいよな?そう言われて手を繋がれ、マンションのエントランスに走り込んだ。