どきどきするのはしかたない
「…涼葉。偽装結婚、するかも知れないんだ」
「えっ?」
少し距離を保ったまま二人共仰向けで軽く布団を掛けていた。
「周りには偽装だとバレては意味が無いから。だから、ここまでは涼葉にも話せなかった。勿論、その相手が元結婚相手という事もだ。全てが極秘だ。一部の人間しか知らない。失敗は許されない、そんな最重要な事なんだ」
「課長…、では、どうしてその話を…私に。…ごめんなさい」
今の今まで話そうとしなかったのに。それが、どうして…。
「ん。好きな人に信じて貰えないって、…こんな悲しい事は無い。何も言わなくても信じて欲しいけど、今はそれは叶わない、言わなければ信じて貰えないんだ。それも、本当だと思ってくれるのかさえもどうか解らない。全く信用が無い訳だ。
だけど、俺も駄目だな。これは、計画が終わるまでは一切口外してはいけない事になっているんだ。それを涼葉に話してしまったよ、どうする?」
「えっ、課長、大丈夫なんですか?」
聞いたら聞いたでこんな返しをして…。これでは私は…是が非でも聞こうとしている事に、全く覚悟が無いと、言っているようなもの…。馬鹿だ。聞きたいとしつこく懇願したことなのに。
「私…誰にも言いません」
「うん。大丈夫だ、俺は涼葉を信じているからな。
ふぅ…。大方、この事を涼葉に言ったのは、二課の涼葉のところの課長だろ」
…。それほど詳しくは知りませんでした。
「…ん。偉いな、涼葉は。はいと言わない」
…だけど、何ですか?それ、とか、いいえと言ってもいませんから。
「いいんだそれで。それはそれで約束だろうから」
何か、知らない大きなモノが動いているのだろうか…。
「俺があのお嬢さんと結婚するという話を、ある時期になって公にした時、解る事があるんだ。…上の方でな。
それに俺は協力を求められた。だからそれが終わるまでは、涼葉とも、結婚したくても結婚出来ないんだ。
あぁ、もう、大体の事は話してしまったぞ。涼葉もこれで、表には出ないけど共犯だぞ?
俺が悪い方の協力者だったらどうする?」
薄いカーテンのままだった。
稲光が走って、轟いた。
「キャー!」
慌てて布団を掴んで被った。
「…涼葉、こっちに来い。大丈夫だから。…何もしないよ」
「課長…」
ピカ、また光った。
…課長の方に向き直り腕を伸ばした。課長が近付き抱き寄せた。
「…はぁ、涼葉。…恐がりだな…。大丈夫だ、こうして居たら恐くないだろ?
…涼葉、ごめんな。…人を疑うような、嫌な気持ちを起こさせてしまって。何もかも、訳が解らなかっただろ…」
抱きしめられていた。課長の中に居れば閃光は見えない。轟く音も、トクトクと響く心臓の音の方に強く意識が行く…恐く無い。
こんなに話を聞いても、これだって、上手く作った話じゃ無いかって…もう、何もかも、余計解らなくなった。疑心暗鬼の塊だ。
頑なになってしまった心。私のこの気持ちはちょっとやそっとでは解けないかも知れない。
…課長、解りません。
私は何もかもがもう解りません。
ごめんなさい。