どきどきするのはしかたない

「お…あ、悪い…」

支えるまでも無かった。手を差し出そうとしたら急にむっくりと立ち上がって、ちょっとグラついき歩き始めた。
…大きい。
スタスタと歩き、奥の部屋のドアを開けていた。

……え?この人がお隣りさんなの?
カチャッと開けて入る瞬間こっちを見た。

…え、…あ、え?…あっ。

「え、七、草、さん?…」

「フ。お疲れ様、愛徳さん」

…声。この声だ。でも、この顔…顔も見たことある。失礼。見覚えのある顔だ。誰だっけ……違う、どこだっけ。あ。思い出した。
えー?隣の人は七草さんだったなんて……。
…え?確か、名前、さえぐさだって…言ったはず。
えー。隣には一体何人居るの?……健全なルームシェアなの?ん?
…あ、でも、待って。ベランダで話した人と声は同じような気がするのよ。ん、間違いないと思う。

部屋に入らず考えていた。
一度閉まった隣のドアが開いた。

「あのさ…その呼び方。別にいいんだけどさ。みんなって言うか、何て言うか、三課の人間は知っててわざとなんだけど。
俺の事、字面のまま、ななくさってわざと呼ぶし、それはもういいんだけど。
正式には、さえぐさ、だから。その顔つき…これでその謎は解けただろ?」

え…え、今の今まで、ななくささんだと私も思い込んでいた。

「フ。もう、愛称みたいに呼ばれてるからな、仕方ないさ。別に構わないよ」

あ、だから、私も…よく確かめもせず、思い込んだんだ。…どんな時も、何もかも、直ぐに思い込んで譲らないのは私の良くないところかも知れない。
とても珍しい苗字でもあるし。読み方はそのままではなくて違っていたんだ。…なんて失礼な事を。

「…あの、生意気に、ななくささんだなんて…すみませんでした。勉強不足でした、すみません。
でも、今…具合が悪いとかでは無いのですか?大丈夫だったんですか?」

「ああ、何でもない」

…何でもないって聞くと…では、どうしてうちの前に居たのと思ってしまいますが。
何故、居たのだろう。

……会う為?
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