どきどきするのはしかたない
「じゃあな」
…あ。
「はい、…おやすみなさい」
「フ。おやすみ」
何だか解らなかった。居た理由も聞けなかったし。
人物は特定出来たけど、んー、うちの前に居たのは何だったんだろう。
七草さんは三課の人というか、三課の一角に居るシステム部の、唯一居るSE…。
知っているというくらいで、私はトラブってお世話になった事が無いから、階も違うし、会う事は殆ど無い。
確か…、入社して直ぐのPC研修でお世話になった覚えがある。そうだ、そうよ。
あの時は眼鏡を掛けていて、髪型も含め、印象も今とは…ちょっと違う感じだった気がする。
申し訳無いけど記憶に残る程印象に残っていなかった。…あっ、名前、研修の始めの挨拶の時、言ってると思うのに…。研修の人だ、くらいに思って…。碌に記憶してなかった。
なんて事…。益々失礼じゃない…。
遅くまで仕事をして居る人に、何かのトラブルで呼ばれる事もあるかも知れないけど、普段は時間通り終われる訳だ。だから、私が帰るくらいの時には居るって事だ。納得。
んー、では…、部屋に入って行ったあの女性は?…詮索する事じゃないのか…。
隣に住んでいたのが、会社の人だったという事しか、解る事は無いって事か。
ブー。あ、…携帯。
…課長だ。…やっぱり来たか。
【有難う。連絡をくれるとは思っても見なかった。会えるか?】
…やっぱり会わなきゃ駄目か。
【いつ、どこでですか?】
【これからどうだろう。場所は、俺の部屋は嫌だろ?】
んー、それは今は、避けたい。当たり前だと思う。
【課長の部屋以外なら大丈夫です】
あ、でも…ホテルとか、そんなのも無しなんだけど。
【会うなら、どこかの店にしようか…】
今からならバーとかになるのかな。
【やっぱり今日は止めておくよ。改めさせて欲しい。
それから、結婚は本当に無いから。慌てて別の男となんかつき合うなよ】
え?今日はやめるの?…都合が悪くなったのかな。
【改めてのご連絡、お待ちしてます】
はぁ…何が、別の男となんか、よ…。そんなにホイホイ軽く直ぐいける訳無いでしょ?
そんな気持ちになれる程、何も無かった事にもまだ出来てないっていうのに。…何言ってるのよ。
【連絡する。おやすみ、涼葉】
…。
【おやすみなさい】
…ふぅ。
『やっぱり会わなくてもいいです。話はメールで済ませて貰って構いません』
そう送ろうか迷った。だけど、きっとそれでは駄目だから、課長は直接話をしようとしているのだろうし、私も、聞きませんと言っているばかりでは駄目だとは思っている。
だけど、今は…二人では極力会いたく無い。
自信が無い…流されたくない。
翌日、課長はバーを指定して来た。