どきどきするのはしかたない

「居るのか…」

「キャ。わっわっ」

落ちそうになった缶を掴まえようと、右手、左手と、慌てた。なんとか掴んだ。…はぁ、危な。
本のちょっとだけ、チャプンて零れたじゃない…。手も、柵も濡れた。

「はっ、悪い。驚かせたな。大丈夫だったか」

「…はぁ、缶が落ちそうになって…何とか、死守しました。まだ飲んで無いのに、下まで落とすところでした」

ペロッと手の甲を舐めた。…甘い…かな…。

「それは危なかったな」

「はいっ」

全力で返事をした。

「フ」

…笑われた…七草さんのせいでもあるんですからね?…ん?あれ、スーッ…煙草の匂いがして来ない。

「あ、の、今夜は、煙草は吸われてないんですか?」

「あ?ああ。帰ってから、ちょっと前に吸ったから。そんなに頻繁にはな」

あ、そうか。いつも私と居合わせた時が煙草タイムとは限らない。いつ吸おうと本人次第だ。一日の本数とか決めてあるのかも。
ヘビースモーカーでも無い限り、そんなに頻繁に吸わないよね。

では、今は何故ベランダに居るんだろう。
それを尋ねるのは踏み込み過ぎる詮索かな…。煙草と同じ事だ。自分の部屋で、いつ何度ベランダに出ようと自由なんだし。
聞いたところで、そう言われてしまいそうだ。

「遅かったな」

「え?」

「それを何となく飲みたくなった。それが、帰りが遅くなった事に関係しているって訳だ」

「あ」

人の事、よく解るんだ…。

「フ。だから…、また、“風邪”は振り返すのか?」

「え?…あの、それ…。この前から…風邪って」

「愛徳は周りを見てないからな」

「え?は、い?」

「まあ、いいよ。色々、考えてる内に思い当たる事もあるさ。じゃあな」

「え?…。あ、おやすみなさい…」

…全然解んない。周りを見て無いって何だろう。思い当たる…何に?えー?
何だか、私、自分の事しか考えてないって事?視野が狭いって事かな。
…自己中だって事?
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