どきどきするのはしかたない

何を言ってるのか意味が全然解らない。これって、セフレだったの?…あぁ…、話がごちゃごちゃして解らなくなってきた。課長にとって結婚は別物…。
好きって言ってる…好きだから、結婚しても続けるって事?…割り切ったつき合いをするって事?
でもそれは…このまま続けたら、不倫になってしまう…。それは…。
私に愛人になれって…それを望んでいるって事?

降りてベッドの下に散らばっていた服を拾った。セフレも、…不倫も……何もかも…もう嫌…。

「涼葉、待て。まだ話の途中だ。俺は…」

咄嗟に課長を見た。多分、反抗的な目を向けたと思う。こんな態度は今まで一度だって取った事は無かった。
そんな場面は無かったから…只々課長の腕の中で甘えてばかりいた…。

「酷い…。好きって言っても、課長の好きは、私とは違う好きって事。今、解りました。私、勘違いしてた。…そんな、好きだって、知らなかった。
結婚するって聞かされて…、それで好きだと言われても、続けられるはずが無い。これ以上、都合のいい関係になんて…そんな…なりたくないんです」

好きだから出来るはずがない。

「涼葉、…好きなんだ。…違う。ちょっと待ってくれ。ちゃんと話を聞いて欲しいんだ」

「だから…違うなんて、嘘です。そんなの嘘…。好きって、なんですか?今になって意味の無い好きは言わないでください…。そんな好きなら要らない。欲しかったモノじゃないです」

もう今以上情けなく惨めになりたくない。
終わりにしようっていうなら、どうして今夜誘ったのですか…。あんなに沢山して…。私の身体…こんなに堪らなくさせて…。
これで最後になるかも知れなかったからですか?
だとしたら、狡い…酷い…。
終わりにしたいのなら、話だけで良かった事じゃないですか…。
酷い…馬鹿みたい、私。
今夜は情熱的に愛されてるって思って…。課長に溺れて…恥ずかしいくらい凄く甘えた…求めた…。はぁ……情けないよ、…惨めだ…。馬鹿じゃないの?私…。課長が私の中にこんなに…。はぁぁ。
…結婚する?…すればいい…。すればいいのよ。


…課長との始まり。資料室を出ようとして、うっかりばらまいてしまった書類を拾い集めていたら、通り掛かったのか、課長が手を差し伸べてくれたんだ。

一つ一つ拾っていく内に、同じ書類に手が重なった。
慌てて手を引いたら、その手を握られてしまった。
え、何?…って、凄くドキドキして動揺した。引こうとしても離してくれなくて、益々恥ずかしくなって一気にかぁーとなった。
その顔を、赤くなって…可愛いなって言われて。
課長の手が頬に触れた。

課長の事は…入社した時から素敵だと思っていたから。見つめられて、動けなくて、握っていた手も頬に触れた時、えっ、と思っていたら、もう唇が触れていた…。暫く重ねられたままだった。

課長の胸に両手をついた。キュッと上着を掴んだ。
徐々に熱さが増す口づけに、被さる課長の身体に思わず腕を回していた。
唇が離れていくのが名残惜しかった。
ごめん、可愛くて、したくなったからって言われた。
余りにいきなりの事で戸惑いはありながらも、ただときめいていた。
課長は先に戻るからと言って書類を私に持たせると資料室を出て行った。
座り込んだまま暫く動けなかった。
その時はその後も、特に声を掛けられる事も無く、それっきりだった。

動揺していた私の様子から、きっと好意がある事はバレていて…からかわれたのかも知れない、なんて思っていた。
課長をこっそり目で追い、思い出しては溜め息をつく毎日になっていた。

数日経って、ご飯に行かないかと言われた時はびっくりした。資料室での事を思い出すと恥ずかしかったけど、断る理由なんて私には無かった。
緊張しながらも食事の時間は楽しくて、何より少しでも課長と二人で居られる事が嬉しかった。
そして、その後…、自然と誘われ、初めて課長の部屋に行った。
求められ、私は…拒否しなかった。…だって好きだから。
それから、ずっと…。
私達の関係は半年以上続いていた…。


「明日、会社で会っても、ただの課長と部下です。それでお願いします。
もう、こんな風には会いません…」

精一杯の虚勢だった。急いで服を来て部屋を後にした。

……どうして。結婚するんだって、言われるなら、私とって、言われたかったです…。
好きって言うなら、どうして、違う人と結婚なんてするんですか。…違う。結婚するなら、気持ちなんか言わず、別れようだけで良かったんです。…最初から遊びだったって。
…酷いです。今日、課長のした事は。これでは、私は…、天国からいきなり奈落の底じゃないですか。
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