どきどきするのはしかたない

「俺は知ってる」

「え?」

「あの時の資料室での事。誰が居たのかも」

「…え」

「愛徳は山本課長と一緒だった」

あの時って、…どっちの。
半年前の時?それとも最近の?

「…えっと」

「昔も、最近もだ」

あ、座り込んでキスをして、堪らなくなって夢中で課長に腕を回していた事…あれも見られてたって事…。
それは敢えて話には出さない。…思い出すだけで顔から火が出そうだ。
最近の方の事を尋ねた。

「…困っていた時、私の名前を呼んだのは…七草さんだったって事ですか?」

呼ばれたけど、出て見た時は誰も居なかったんだ。

「そうだ。だから、余計な事をしたかって、言った」

…確かに、余計な事したか、って言っていた。
この事を言っていたんだ。

「初めてだったな」

「え゙?」

…何…初めてって。

「課長が来たのは」

「え゙っ?」

あ…、今度はうちに課長が来た時の話?
なんで知ってるの…。

「…別に聞き耳を立てていた訳じゃない。
隣だから微かに聞こえたんだ。愛徳が課長って呼んだ声が、大きかったんじゃないのか?
夜中で静かだったしな」

あ、…。確かに…。力一杯大きな声で呼んでしまった。
課長にもシーッて言われたくらいだから…。

「それで、仲良くなれたのか?」

今の言い方…、何だか露骨で七草さんらしくないと思った。
いつもみたいに比喩しないなんて。…比喩は比喩してるのか。

「仲良くなんて…風邪が治っただけです。あの」

そろそろ腕を離して貰いたい。目線を掴まれている手に向けた。

「では、俺は、風邪薬にでもなろうかな」

…え。…何。
手を離してくれた。

「フ。引き止めて悪かったな」

七草さんは階段を下りて行った。

「あ、…」

それ以上、言葉が出なかった。何だか聞くに聞けない。
風邪薬?…。薬…何?
今度はどんな意味があるの…。
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