どきどきするのはしかたない
・好き過ぎるとオコル事

心待ちにしていた旅行は、目前になって駄目になりそうになっていた。
ううん、もう行く事は叶わないと思う。……はぁ。

今、私は搬送された病院での処置が終わり、警察官に事情を聞かれているところだ。

買い物の帰り、やっぱりどこか浮かれ気分でホームで電車を待っていたのだと思う。全く、気配も感じず、誰かに後ろから押されたからだ。
線路に落ちて、擦り傷と捻挫、打撲を負ってしまった。一応という事で頭の検査もされた。

状況は解る程度にしか話せない。後ろからの不意打ちだったから。
少しでも見てないのかと聞かれても、押した人の姿は見てないものは見ていないから解らない。
事件じゃないかも知れない。偶然の事故かも知れない。
誰かと揉めているとか、そういった心当たりは無いのか、また、自殺ではないですよね、とも聞かれた。
…これが警察官の仕事だ。仕方ない。だけど聞かれるとちょっと気分が悪い。
…今の状況で自殺するなら、私は一体何度自殺をしないといけないのかと、私という人間の現状の心理を知らない警察官の言葉を少し嫌味に思った。
…楽しいと思っている時でも、人は死ぬんですかって。
意味も無く聞いてみたくなった。ただの意地悪だ。本当に突っ掛かるように聞いたりする勇気は無い。
旅行に行けなくなった私の気持ちなんて、知るよしも無いのだから。

はぁ、まあ、余計な事は言わない方がいい。
心証を悪くして、自作自演の自殺じゃないのかとか、更に疑われたくも無い。
そうなると面倒臭くなるだけだし。

旅行を目前に、こんな事になるなんて…。今となっては遅いけど、はぁ…買い物になんか…寄り道しなきゃ良かったんだ。
日数に余裕のある内の怪我ならまだマシだったのに。
…はぁ、旅行は週末からの土日よ?
今日は水曜…。もう、無理、最悪としか言いようが無い。
診察の結果、全治3週間だと言われた。
無防備に線路に落ちたのだ。受け身を取るなんて事も出来るはずも無く、身体を強か打ってしまった。

当初、カレンダーも見ず、ベッドの中で旅行の話の続きをしていた時は、二人揃って休みを取らなきゃ駄目だと思っていた。
後でカレンダーを確認して見たら、丁度土日と重なっていた。敢えて休みを取る必要も無いなって、そんな話になっていたのに…。

ちょっとだけ…課長と旅行だって、嬉しくて、…色気を出したのが良くなかったのかも知れない。
課長と出掛ける、その嬉しさから、洋服を買いに来てしまった。
それも、こんな際になってから…。

みんなの憧れの課長と、好きだと確認し合ってつき合ってしまったから、色〜んな罰が一遍に当たったのかも知れない…。
…余りに痛すぎる罰だ。
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