どきどきするのはしかたない

病院で一晩経過を見る事になった。
ベッドに寝ていると、何だか痛みが増してきた気がした。
レールで打ったのだと思う。胸の当たりは特に痛みが強い気がした。本当は肋骨にひびでも入っているんじゃないかとさえ思った。
色んなところが…全体的に痛くて、身体を少しずらしたくても動かす事が苦痛になってきた。
捻った足首もズキズキと熱を持って痛い。
そのうち痛み止めが効いてくるのかな…。

落ちた時、周りは一瞬の沈黙があった。
私自身も何が起きたか解らなかった。
押される前だって、肩に誰かが当たったりもしたけど、混雑している中では、それはいつもの事だと思ったし、まさかその後でこんな目に遭うとは思わなかった。

膝がいきなりカクンとなったと思ったら、前に飛び出すように背中を強く押された。
冗談みたいな話だけど、先に軽く膝カックンをされたんだ。今思えば…踏ん張れなくしたんだと解る。

不思議なもので、そんな時って、人はみんな反射神経が良くなるみたいだ。
受け止める方では無い。避ける方にだ。
私の前に居た人は見事に避けたのだった。
人って、人にもよるだろうけど、自ずと何だか解らない物から危険回避出来るようにプログラミングされているのかも知れないと思った。

前が見事に開けて、誰に当たる事も無く線路に落ちた。そのまま動けないでいたら、女の人の悲鳴が上がった。
状況が把握出来たのだろう。
その声が引き金になり一気にわーっと騒がしくなった。そんな感じだ。
その内、駅員が駆けて来たようだった。
人が落ちたぞ、とか、誰だ、誰が押したんだ、とか、騒然として来た。
駅員と男性が私を抱え、引き上げてくれた。
バッグや飛び出した中身、ショップの袋等も拾い上げてくれた。
幸い駅に直ぐ入って来ている電車は無かったようだった。だからそれだけの事が出来る余裕があったんだ。
誰かが緊急停止ボタンを押したようではあったが、直ぐに入って来る電車は無かったようだから影響は無かったようだった。

どうやら病院に搬送されるようだ。
胸に鈍い痛みもあり、驚いたせいもあって顔も血の気が無くなっていたのだろう。
足も痛かった。捻ったのだろう。擦り傷もあった。
無理して歩けない訳でも無かったのに、頭を打っているかも知れないからって、救急車が来るまで動かないようにと言われた。むやみに動いたら危ない場合もある。

どこの誰だか解らない人が、大丈夫ですかと、傍らに居てくれたのを覚えていた。
< 48 / 171 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop