どきどきするのはしかたない
今まで何だったんだろう。…。思い返しても思えば何も無い。
こんな風に思い返したく無かった。改めて考えたら、…何も無かったんだ。
簡単に言ってしまうなら、私と課長の今までは、ご飯を食べて、する。か、初めからするか、…それだけだったんだ。
半年の間を思い返してみても、それ以外何も無かった。何も疑わなかった。
課長は忙しいから、これがつき合っている事なんだって思ってた。それで私は充分幸せだった。デートらしいデートが無くても大丈夫だった。
改めて確かめた事なんて無かった。不安なんて無かったから。
濡れ鼠になって部屋に帰り、シャワーを浴びた。
天井を仰ぎ壁を見つめ、排水溝に流れ込むお湯を眺め、暫く動かなかった。時間はどこか止まっていた。
虚しさでまた涙が流れた。噴き出すお湯だけは、裏切る事なく、ずっと私の涙を流し続けてくれた。
気が付けばボディーソープを手に取り、ゴシゴシと身体を洗い続けていた。
感じる事はこの先だってなかったであろう嫌悪感…それを感じ、悍ましくなった。
こんな風にしたって、今まで触れられた感触は、簡単には消えやしない…。
少し前まではこんな思いになるなんて考えもしなかった。
身体が温まる程の事も無く、出て、重い身体で冷蔵庫を覗いた。
…ふぅ。一本あったカシスオレンジの缶に手を伸ばした。
開けて一口、口に含み、飲み込んだ。
はぁ…ん゙…、こんな時は辛口のアルコールがいい、と思った。この甘さが何とも気分に合わなかった…。髪の毛を拭きながら何となくベランダに出た。
はぁ、…雨、上がってるじゃない。あれは通り雨だったのね…はぁ。
もう少し時間がずれていたら、濡れずに済んでいたって事ね…。
いつものようにまだ部屋に一緒に居たら、濡れる事なんか無かった…雨なんて降ってようが、関係無かった…って事だ。
下に目をやれば、濡れたアスファルトが黒く光っていた。…月が照らしていた。薄雲が棚引いていた。
…湿度が高く、頬に感じる風も何だか重く…息苦しい気がした…。
…雨…有り難かったかな…。
急な雨は誰も他人に興味を持たなくさせる。みんな自分の事だけになるから。
はぁ、せめて…なんで今日は金曜日じゃないんだろう。明日も明後日も、まだ会社に行かなきゃいけないなんて。
同じフロアに居ても、救いは直属の上司では無いという事か…んん…。
ズー…はぁぁ。半年は長かったのか短かったのか…。変な関係にならずに済んだ事、良しと思うしかないのかな…。でも、…。納得するには、まだ…。だけど…。
…終わってしまったんだ。