どきどきするのはしかたない
「ちょっと資料室に行って来るね」
同僚に声を掛けて向かった。資料室は一つ下の階、営業三課の隣にある。
いつ来ても…、分類されていないといけないはずなのに、乱雑になったままで…。
元あったところに戻さない人が居るって事だ。
その繰り返しが、この有様って事だ。
はぁ…もう、誰か一度きちんと整理し直して欲しい。これでは欲しい資料が中々見つからない。
段々と奥の棚の方まで来ていた。この調子では時間が掛かるばかりだ。
あ、あった…。これだ。
「涼葉」
え?手に取った資料のファイル。強く胸で抱きしめた。
「課、長…」
聞き覚えのある好きな声。でも、今は聞きたくない声だ。空耳ではなかった。
課長がこっちに来ていた。
…どうして、ここに課長が?跡をつけて来たのだろうか。
この場所で、二人一緒になんて居られない…。
とにかく出なくちゃ。
廊下に出ようと歩き始めたら、すれ違いざまにやんわりと腕を取られた。
「涼葉。俺の話、聞いてくれないか。まだあるんだ」
何があるっていうの…。
「もう聞きました。結婚するから終わりだって。…聞かなくてはいけない事は無いと思います。あれ以上私は何を聞かないといけないのでしょうか」
今の私は…精一杯、虚勢を張ってるんです。この手…解放してください。
「涼葉…聞いて欲しいんだ」
だから…。
「仕事に戻らせてください」
…お願いです。もうこんな事はしないで欲しい。もういいじゃないですか。
手を掴んで離した。
「愛徳さ〜ん。愛徳さ〜ん。居ますか〜?」
「あ、はい。は〜い。ここです」
誰か知らないが助かった。もうこんな…話す事なんて何も無い。
どうして仕事中に…。追い掛けて来るような事までして。何の話をするつもりだったの…。
急いで廊下に出た。
「はい?」
…あれ?確かに呼ばれたはずなのに…。
誰も居なかった。用は急ぎじゃ無かったのかな…。
でも、良かった。お陰で密室に二人で居る事からは逃れられた。
「涼葉」
後ろに課長が来ていた。背を向けたまま言葉を返した。
「会社で話す事はありません。勿論、会社以外ででもです。何も話す事はありません。こんなのは止めてください、失礼します」
早足で廊下を進み階段を駆け上がった。