どきどきするのはしかたない
パジャマの袖を通して前を合わせ、ボタンを留めてくれている。
課長、さっきの事は、一体…。
「確証があって言ってる訳じゃ無いんだ。まだ証拠がある訳じゃ無い。
それこそ、防犯カメラに写ってでもいたらはっきりするだろうけど。
心当たりっていうのは、俺が結婚を断った相手かも知れないって事なんだ」
「課長の結婚相手だった人…」
手を握られた。…あ。横に腰を下ろし、肩を引き寄せられた。
「…うん。プライドの高いお嬢様だからな…。
まだ解らない話ではあるけど。前に、初めてここに泊まって帰ったよな?」
「は、い」
「あの時、誰かに見られてるような気がするって、涼葉、言ってた。それからも、たまにそんな気がするって言ってただろ?」
「はい」
確かに視線を感じる気がして、間違いかも知れないけど課長にはその都度伝えてはいた。
「昔、涼葉が俺の部屋に来ていた頃はそんな事は無かった。
俺達が気持ちを確認してつき合いだしてからだ、涼葉が気になると言い始めたのは。
つまり、涼葉の事を、昔はそれだけの、よくある…、男女の身体だけの仲だろうと理解していたのだろう。それが、自分との結婚話を断って、本気のつき合いを始めた。そういう人なんだって、思ったんだろ…」
…そんな…課長と結婚しようとしてた人が、そんな人なんて…。
「まだ解らないですよ?でもそんな…激しい人なんですか?」
「…はぁ。詳しくは知らないけど、気が強いと専らの噂ではある。まあ、偏見だが、…お嬢様だからな」
…。私は知らない。性格は勿論、その相手がどこの誰かさえも。…顔も。…名前も。
それに…課長のさっきの話…あれだと、課長の結婚話はかなり前からあったという事になる…。
私と関係を持つ前からだったという事になりはしないだろうか…。
「まだ解らないからどうする事も出来ない。
だけど、そうなら涼葉の部屋の場所だって知っていると思う。
俺の部屋だって知っているだろうけど、だったら一緒に居る方がいいだろ?」
だから…課長は、この部屋に来るように私に言ったんだ。
私が怪我をしたと解ってから、そうじゃないかって、考えていたんだ。
「はい」
…誰かに見られている事、気のせいかも知れないと言いながらも、その辺りから、課長はとうに思い当たっていたのかも…。
もっと、前、から、…。そういう性格の人なら、私が課長とちゃんとつき合いだした時から、こんな事、いつかはある事かも知れないと思っていたのかも知れない。