どきどきするのはしかたない
「課長、おはようございます」
「はい。おぅ、おはよう」
「あの…」
課長は課長でも、二課の課長だ。その二課の課長に声を掛けた。
休んだ事の話をしておきたかった。直接自分から連絡も入れていなかったし。それも謝っておきたかった。
「あー、愛徳。そうだな、ちょっと会議室に行こうか」
「はい」
…有難うございます。
「あまり時間が無いから手短に言う。
身体はもう大丈夫なのか?打撲はジワジワと痛いものだ。動きも緩慢でないと動き辛いものだ。
誰も愛徳がホームに落ちた事は知らない。愛徳も誰にも言っていないだろ?」
「はい」
「あまり自分から無理して動かなくていいから。デスクに座って仕事をしてくれたらいいからな」
「はい、あの、休む連絡をきちんと自分でしなくて、申し訳ありませんでした」
「あぁ、その事なら気にするな。
愛徳の事を、なんであいつが、あぁ、山本が言って来るんだと思ったけど。
…大丈夫だ。俺は口は堅い。それだけが取り柄だ」
つまり、それは、課長には課長との関係を認識されてしまったって事ですよね?…。
「いやぁ、あいつに決まった人が出来るとこっちは助かるのは助かるんだ。そうなると誰にも靡かないって事だからな。
…だけど、…それが愛徳だとは思わなかったよ…」
…それは、何とも、返事のしようが無いですけど。
「口が堅いと言った俺が、ペラペラと世間話をしていたら信用が薄れるかな」
「それは今は別だと思います」
「ん、まあ、捻挫だけで二日休むのも大袈裟かも知れないと思ってな、風邪がメインみたいに足しておいたんだ」
「はい、色々と有難うございました。気を遣って頂き有難うございました」
「ん。では戻るか」
「はい」
時間を無駄にしない課長がドアを開けて暫く待っていてくれた。
近づくとスッと腰に手を回された。
「…すみません…有難うございます」
…このくらいの年齢になった方達は、こういった事が違和感無くスマートに出来るようになるものなのかな。…とても紳士的だ。
「慌てなくていい、大丈夫か?じゃあな」
「はい、有難うございました」
この日から、課長は仕事の頼みがある度、自分から傍に来てくれた。
なんと優しい課長だ。直属でありながら、今更、少しだけ課長の事が解った気がした。