どきどきするのはしかたない

「…どうして」

あ、いけない。つい、口から疑問が。変に取り繕っても仕方ない。
そのままにしておこう。

「知ってる」

「え?」

「愛徳涼葉の事なら知ってるつもりだ」

「あ、その」

この言い方。どうも含みがある。

…。

「上手く解決すればいいけどな」

「え?」

「あー、デザートにするか。珈琲入れるよ」

…。

今のはきっとこの怪我の元になった原因の事だ。
…知ってる、知ってるって言うこの人は、私に関わる事、何でも知ってる?…。
私…何でまだ良く解らない人の部屋で、呑気にご飯なんか食べちゃってるのか…。
こんな事では、簡単に人に拉致られてしまう…。
顔見知りとそうでないのでは、これ程人を信じてしまうものなのかな。
私が曖昧なモノに簡単に流され過ぎなのか…。

今頃、課長から連絡が来ているかも知れない。
もう帰らないと。
勢いよく立ち上がった。

「…ご馳走様でした。私、帰らないと。後片付けしますね」

「いいよ、片付けは。帰りたいならどうぞ?
だけど、玄関は入れるのか?
鍵、してるんじゃないのか?」

「…え、……あっ!」

そうだ、しまった…。当たり前に玄関から出て玄関から入ろうと思っていた。
…はぁ、ベランダから来たらベランダから帰るしかない。
玄関は鍵をかけている。しかも、しっかり二重ロックまで…。

「はぁ、もう…どうしたら…」

「困る必要無いだろ。俺が送るしか手は無いだろ?
まあ、珈琲、飲んでからにすれば?
マカロン、あるよ?」

立ち上がった時の勢いはどこへやら…。
力無くまた腰を下ろした。

マンゴー、ピスタチオ、ラズベリー…、綺麗な色のマカロンが出された。
ここまで用意してあって、来る予定だった人、都合が悪くなったのなら、…悲しいかもですね。
はぁ、こうなったら、早く帰れるかどうかは七草さんの気分次第って事なのかな…。
迂闊だった。こんな事になるなんて思わなかった。
後先考えずに…。本当、鍵も携帯も、何も持って無いなんて…。
言われるまま、急に勢いでベランダから来ちゃったから仕方ない…。

「何なら泊まってもいいけど?」

珈琲の注がれたカップを置かれた。

「はぁあ?」

…いけない、苛々していたから。…つい。荒い返事をしてしまった。
でも、変な事言うから…。

「お?怒らせたか?…大丈夫だよ、俺の責任でちゃんと“送る”から。
取り敢えず、デザートも食べちゃって、はい」

もう、この言葉、信じるしかない。最早帰れる手段はこの人しか無いんだから。…帰れなきゃ…泊まりっていう事に。…。
あー、足さえ痛くなければ、自分で何とか出来るかも知れないのに…。
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