どきどきするのはしかたない
「…あ、私、ごめんなさい…無理です。やっぱり今は駄目です…」
来ちゃいけなかった…。
「ん?何…」
「まだ…打撲の跡が消えて無いから。こんな身体では…。違う、そうじゃ無い。こんなのは…駄目です。解ってます。七草さんだって解ってる。私はただ…」
私は…流されて七草さんを利用しようとしていた。課長との事…話を聞いて貰う…そんなつもりで、勢いで来た…。これ以上は。
それに…身体には酷い痣だってある。…私は何を…。今はそんな事じゃない。
「…ごめんなさい、やっぱりこんなのは駄目です。…駄目です」
自分から来ておいて、薬を貰いに来たなんて言って…。七草さんは、そういう事だと。だから、ベッドに。
挙げ句、駄目だと言って。……はぁぁ。
これでは、七草さんを気分で振り回して、傷つける事になりはしないだろうか。駄目だとか言って…もう傷つけている。
「身体…痛みはまだあるのか?」
「……え?いいえ、痛みはもう無いです。でも、…薄く痣が、一杯、引くくらいあります。だから…、と言うより、やっぱりこんなのは駄目です」
痣があるからが、理由ではない。
「都合よく利用しようとしてると思ったなら、俺は構わないんだ。だが、どうしても、愛徳が無理だと言うなら、無理強いはしないけど…」
「…酷くないですか?…嫌じゃないんですか?……こんなの。それに、こんな酷い状態の身体でなんて…」
「痣か?好んでって訳じゃ無い。あるからって嫌じゃ無い。変なフェチとかは無い。今、たまたま愛徳の身体が傷んでいるだけだろ…」
…これが今の私だ。狡くて自分の事しか考えていない…。そんな最低な女だ。…ただ、話を聞いてもらって、慰めて欲しかっただけなんだ。…だけど…。それは…。ここに自分から来た事…、そうはいかないって事だ。
…それでいいと言う言葉が嘘じゃ無いなら……。
七草さんに腕を回した。
「…驚かずに、身体に打撲の跡がある事、聞いていられたのは、この事…何もかも知っていたからですか?」
「…これは、納得した、…いいって事か?」
わざと聞いた事に返事はしないのですか?
「…はい。でも、本当に私、何もかも…酷いですよ。身体も…心も…最低です」
「ん。もうその事は言わなくていい。もう、止めてもやめないぞ…」
腕を解かれ薄着の服を脱がされた。
「あっ。駄目…シャワー。このままなんて嫌じゃないですか?」
帰って来てそのまま来たから…。それって、何か…課長との事、思って、嫌じゃないのだろうか。
「嫌じゃない…」
痣のある辺りにもう唇が触れていた。
…あ。…一体、どんな気持ちで…私に。こんな酷い身体に触れてるんだろう。しかも、ブレブレの最低な女なのに。
「これが今の…正真正銘、不安定で傷だらけの愛徳だ…。そして、俺も狡いんだよ…」
優しく抱きしめられた。
…あ。…ん゙…。
堪えられなくて、グスグスと泣いて抱き着いた。
何もかも隠さず…、曝け出してしまった。情けなくてやる瀬ない気持ちも。曖昧に逃げる狡さも。
それを受け止めてくれている事が申し訳なくて…。私は最低なのに。
「どうした…痛いところがあったのか?…」
髪を手で梳かれ、顔を見られた。
「…ごめんなさい。見ないでください。申し訳なくて…ごめんなさい、こんなの…最低で。
ごめんなさい…。痛いのは胸の中です…」
「ん。その痛みは俺にはどうにも出来ないな…」
「はい。…これは私が自分でどうにかする事ですから」
「愛徳…もう泣かせたくないんだ…」
七草さん…。七草さんは私を知っているの?…。
七草さんの唇は何度も痣に触れた。
それが私の心にも触れてくれているようで…。
……今は、……本当に薬だと思った。…こんなの……良くない…ごめんなさい。