どきどきするのはしかたない
「私、会った事あります。綺麗な人ですよね?」
多分、あの人の事だと思う。
「…知らない、…」
「え?」
「俺の留守の間に終わらせて帰って貰う事になってるから、部屋で会った事は無い」
…嘘…そんなの嘘じゃ…。
「本当ですか?」
「本当だ」
本当かな…。俄には信じがたい。
「じゃあ、鍵は持ってるって事ですね」
「ああ、まあ、そうだな」
それは…信用の仕事だろうけど…。何だか…。
いつでも入られると思ったら、私だったら恐くて嫌かな。
「どうした?…ヤキモチか?」
「ヤキモチ?…違います」
ヤキモチとは違う。ちょっと心配しただけ…?
「抜け殻、少し中身が出来て来てるんじゃないのか?」
「違います。…出来てません」
いつまでも、雇っておくのかな。
「そうか…。掃除もご飯も、一人って面倒だからなぁ」
…まあ、そういうものだと思います。一人だと、適当になりがちですからね。
「誰かさんがご飯作って一緒に食べてくれたり、掃除もたまにしてくれるなら、家政婦は要らないんだけどなぁ」
それだと、結局、人が変わるだけで必要なのは家政婦じゃない…洗濯は自分でしてるのかな。
「俺、洗濯はするんだ。
洗剤の匂いとか、乾いた時の匂いが好きなんだ。
…こんな…石鹸の香りとか、…」
…もう、…。成る程ね。…知らない…若い女性に、下着まで洗われたら、…。って訳でも無いのか。
「家政婦さんて体(てい)の彼女さんでは無いのですか?」
「…あのな。そんな訳無いだろ。彼女なら、俺がこんな事するか…。
あーもう、早くしないとご飯が冷めてしまうだろ…ん」
あ、だから、今しなくていいでしょうに、って。
「ちょっと。…もう、…止めてください。ご飯。なんですよね?
だから、先に帰ってください。直ぐに行きますから」
「…解った。俺の部屋がいいって事だな」
…意味深長。
この際、どうとでも取ってください。とにかく部屋に帰ってください。
「まだ薬は居るんだろ?」
え?
「まだ拗れてる。ずっと拗らすのか?」
…はぁ、本当……事情通だと思う。