どきどきするのはしかたない
・ドキドキする?しない?どっち?

目が覚めた時、七草さんはもう居なかった。
ベランダ伝いに帰ったのだと思う。

…はぁ、私って……。
このままだとダラダラとだらし無い状態になって行くんじゃないだろうか。…恐い気がする。
やるせないからって…私のした事は…。良くない…最低だ。
課長の事…。はっきりしてないのに…。だから流された、んだけど。……はぁぁ。

…一応、…転落なんて事は無いだろうけど…確認。
…うん。駐車枠に人が倒れているという事は無さそうだ。
ほっ、これはこれで一先ず良かった。
体格が良くて運動神経が良さそうでも、万が一が無いとも限らない。朝はベランダの枠が濡れて滑る事もあるし…。

それにしても…会社に行って、何食わぬ顔で仕事をすると言うのも…きつい…。解ってる事だ。
課長にしても七草さんにしても、仕事で直接関わりがある訳ではないから何とか居られるようなものだ…。
私は…最低だ…。


「愛徳」

「…課長」

「これ、頼むな。足と、…諸々…どんな具合だ、大分良くなって来たか?」

「あ、課長。もう、大丈夫なので、大丈夫です。
書類がある時、用がある時は、呼び付けて貰って構いませんから」

足をぐるぐる回して見せた。

「ハハ、そうか、解った。でも無理はするなよ?
何でもなくても、普通に捻る事もあるから。痛めた足をまた痛めるってやつだ。そそっかしいとある事だ。
では、これを頼む」

置いた書類にトンと手を置き、席に戻って行った。

「ねえ、涼葉。何かね見直しちゃった」

「え?何…びっくりしたぁ」

隣から椅子をスーッと滑らせて来た。
…何か、良からぬ事を言い始めそうな予感。

「うちの、課、長、よ。
今回の涼葉の怪我で、課長がこんなにダンディーな人だとは思わなかったわ。
どちらかと言えば、普段は、ほら、切れ者って感じで、我関せずって、構えてる風なのに。
こんなに気遣ってくれるタイプだとは思わなかったから。意外だと思って、ね〜?」

何が言いたいの…。

「そうね、課長って、根は優しくて、面白そうな人よ?」

…まあ、捻挫以上の身体の痛みも理由も知っている人なのでね?
だから気を遣ってくれているのだけど。

「…へぇ、涼葉はよく理解してるのね。あ、…もしかして。
この前のあれってこれだったんじゃないの?」

あれがこれって、さっぱり解らないんですけど?
…失礼だけど、何だか勝手に下衆の勘繰りしてるんじゃないの?…。
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