どきどきするのはしかたない

「涼葉が一課の課長に呼び出されたのは、うちの課長の事だったんでしょ、そうでしょ?」

まだまだよく解らない彼女の話。…何となくは見えてますけどね。

「同じ課の部下だし、涼葉に直接は聞き辛いから、うちの課長の思いを匂わせて、一課の課長がそれとなく探りを入れて来た。でしょ?
涼葉につき合っている人は居ないかとか。
もし居ないなら、つき合って見てはどうかって、代わりに伝えて来た。
どう?違う?当たり?」

…。恐ろしい程の想像力。飛躍し過ぎでしょ。
微妙な登場人物にドキドキ緊張が走るんだけど。
私がうちの課の課長と?……まあ、最近の気遣いを疑うくらいだから、勝手に勘ぐるのも仕方ないかも。
それに、こそこそ課長の呼び出しについて行ったのもあるから…。

「黙り込んじゃって。やっぱり当たりなんでしょ?」

違うわよ、呆れて絶句してただけですから。

「…あ。あのね、違うから。…変な事、思い付かないで、違うから、落ち着いて?」

「まあまあ、隠さなくても。
じゃないと、今までの課長の優しさは過剰に異常よ。
違うんだったらこれからはみんなに平等に優しくして貰わないと合わないわ。そうでしょ?
ねえ?さっき、足と、って言った後、何かゴニョゴニョ、二人にしか聞こえない話、してたでしょ?あれ、何?ね、ね」

何でも無いから…。

課長は確かにずっと気を遣ってくれてはいたけど、それ程極端な態度は取って無かったと思うけど?私に限らず、怪我をしている人に冷たい方がどうかしてるんじゃない?
大体、誇張し過ぎでしょ。
でも、もし、うちの課長の事が好きな人が見たら、あまり良くは思わないのは確かね。
現に、今でこそ、彼が居るようだから、これ以上騒がないだろうけど、この隣の同僚は、課長の事、いいかもって言ってた口だから。
否定すればする程、ド壷に嵌まりそうだから…止めておこう。
…もう、どうもこんな話って好きよね。
刺激を欲しがると言うか…。知らないけど、彼とマンネリ化してるのかな。

「課長に迷惑が掛かるから、変な憶測は止めて。
な〜んにも、無いから」

「…本当に?」

「疑わないの。本当よ」

「…じゃあ、そういう事にしといてあげる。
だって、そうだ、って、迂闊には話せないもんね?」

しといてあげるって、はぁ…どうしても、くっつけたいらしい。
妄想話を人に話したりしないだろうけど、事あるごとに、ねっ、て顔をされるのも凄く困るし、面倒臭い…。
こんなの想定外よ。
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