どきどきするのはしかたない
ブー。
【解った、連絡有難う】
課長も業務連絡みたいなモノ、なのかな…。
…敢えて関係無い事には余計な言葉は足さない。この場合、そうなのよね。
だって、内容は報告そのものなんだから。
会いたいと…、自然に思ったら、そういう事よね。会いたくないと思うなら…。無理はしない…、そういう事。
どちらにしても、心に素直に従わなければ、冷却期間の意味が無い。
そうですよね、課長。
…課長。課長との、本当の意味での出会いはちょっとした勘違いもあった。
入社して会社で仕事をするのは勿論初めてで、何もかも解らない事ばかりだった。
初めてフロアに入った時の事。配属されたのは二課で、まさか境目の無いフロアで一課と同じフロアだとは知らなかった。…説明を受けていたはずなんだけど。それは私の不注意とか、緊張の無さだったのかも知れない。そんなところ、簡単に学生気分でって、括られてしまったら、他の人が迷惑する部分なんだけど。行くべき場所を間違えてしまったんだ。
入って左のエリアが一課、二課は右側だった。
私は、緊張の無さからでは無く、緊張からうっかりしていた。
課長から朝の連絡事項があるようで聞いていた。次いで、新入社員の紹介が改めてされるようだった。私達新入社員はそんなに大人数て事でも無かった。
後ろの方に居た私は、呼ばれるのを背伸びをしながら待っていた。
…あれ?同期の子の名前は呼ばれて行くのに私は?
私は一向に呼ばれる気配がしなかった。ちょっと顔を出して、声のしている方、課長を見た。
…あっ。…素敵。なんて目を引く人なんだろうと思った。この人が私の上司になる人。そう思って見つめていた。
課長も心なしか見つめているような気がした。…こんなに見られると恥ずかしいくらいだ、なんて…初日からポーッとなるようでは…使いものにならないと思われたかも…。
「あ。あの…えっと、私は…」
やっと声を出したところ、そしたら、隣の塊の前から声がした。
「愛徳。愛徳涼葉…愛徳は居ないのか?…おいおい、遅刻か?愛徳~?本当に居ないのか~?」
クスクスと笑いが起きてしまった。
え?居ますよ?
「あ、はい!はい居ます、ここです。愛徳です」
ピョンピョン飛んで、居ますよアピールをした。
「あぁ、そっちに居たか。愛徳はこっちだ。そっちは一課だ。一課がいいなら、そっちに居ろ。
おい、誰か、ちゃんと教えておけよ〜」
さっきまでのクスクス笑いから、ハハハと先輩社員の方々に笑われてしまった…。
…ゔ、…早速恥ずかしい。…穴があったら入りたいってこういうのねって思った。
入社早々晒し者になってしまった。そう思ってすごすごと移動していたら、一課の課長がそっと声を掛けてくれた。
「俺が先に呼んでおけば良かったな、愛徳涼葉って」
え、あ、…。少し私を見て微笑んだ…、気がした…。
そして一課の課長は二課に歩み寄った。
「新入社員の紹介だ、この時間、一緒にしようか。今後同じフロアで仕事するんだし」
二課の課長にそう言った。
「そうだな、そうしよう。顔と名前は覚えていて損は無い。よし…では皆ここに集合、一課から並んで。愛徳…ポーッとなってんじゃないぞ?早くこっちに来なさい…」
「あ、はい」
…もう、嫌…。
「はい、では改めて始めよう。えー、君からね…はい」
愛徳愛徳って…。もう、散々紹介された気分だと思った。
見つめられたような気がした事、少し庇ってくれたとも取れた言葉。
一課の山本晶仁課長。
この時から、私の、好きの始まりだった。