どきどきするのはしかたない

一度自分の中に好きだと認識してしまった人は、居ると思うと意識してしまうもの。
目で追わずにはいられない。

そんな私の様子は直ぐにバレた。同期の、隣の子に言われた。

「初めからライバルは多いよ?」

「え?」

「一課の課長。いつも見てるでしょ?そんなに見てたらバレバレよ?」

「あ、はは、素敵だなって思ったら見ちゃう…」

「確かに。でも、独身なんて、余計ヤバいよ」

…何がヤバいの?不倫とかじゃないし…まだ思ってるだけだし。全然ヤバくなくない?

「誰とどうつき合うなんて、自由に出来るって位置に居るって事。つまり…、来るもの拒まずとか、取っ替え引っ替え出来るって事。あの外見だよ~?」

「え…そんな」

そんな人には見えないけど。…まあ、最初から贔屓目に見てるから見抜けないって言われたらそうなるかも知れないけど。でも、違うと思う。課長は違うよ。まだ…性格までは解ってないけど。

「私達みたいなひよっこが、好意を持ってるなんて気づかれちゃったら…上手に遊ばれちゃう、簡単にあしらわれてしまうって事。大人は侮れないわよ?食べられてポイッてね」

「…遊び?」

つまり、都合のいい関係?

「それは実際知らないけど。今まで独身だった理由は何なんだろうねってね」

「んー、それは…巡り会わなかっただけなんじゃないの?この人だって人に」

「それは尤もな、純粋な考えね。何か難があるのかも知れないじゃない?私達は、見た目と課長としての課長しか知らない訳だし」

「うん…」

そういう見方をすればそうよね。
子供みたいに、格好いいって、それだけで結婚が成立する訳じゃないもんね…。ずっと一緒に暮らしていける相手じゃなきゃ、結婚は無理。じゃあ…恋愛は?その延長線上に結婚を考える人だろうか。結婚相手と恋愛は別?

「私達は無い、対象外よって思って、憧れだけ抱いて居れば、傷つく事も無いわ。所詮つき合おうなんて思うには高望みの人物だもの。はぁ…見て?
爽やかで高身長、それに、人を一瞬で引き付ける魅力がある。そんな感じ?…はぁ。あんな容姿、狡いよね。無理無理。思いを寄せている人は沢山居るだろうし。課長は一人しか居ないんだよ?」

あ、…確かに。当たり前だけど、課長って人は一人しか居ないんだ。
皆の望みが叶うなんて事は無いに等しい。それこそ、取っ替え引っ替えになら叶うって事だ。

「私はね、うちの課長の方が好きかも」

「え?そうなの?」

「うん。ほら、ピシッと言い捨てるような、シャープな感じがいいかも」

あ、ハハハ、ピシッと、言われたんだ、私。

「ふ~ん、そうなんだ、厳し目の人が好みなんだ」

シャープか…、ああいう感じの人が好みなんだ。うちの課長には、私はちょっと印象悪くしちゃったからな…。

「なんて言いながら、どっちでもいいんだけどね?」

「えっ、そうなの?」

「だって、タイプが違ってどっちも素敵なんだから、甲乙つけがたいじゃない?って、上から目線?ハハハ」

「まあ、そう言われれば。あ、三課の課長は?」

「残念でした、三課の課長はもう結婚してるって」

情報、早。そうなんだ。

「子供が出来る予定だそうだ。余計、残念だったな」

…え、…え?……えー!

「か、課長!」

いつの間に…え?背中から声がした。

「˝品定め˝に盛り上がってるところ悪いけど、そのお喋りのエネルギー、そろそろこれに使って貰おうかな」

…まずい。どこから聞かれてたんだろう。…全部?…まずいよ~…。課長の私の印象って社員として駄目なとこばっかりじゃん…。

教わりながらやって見てくれと言われ、書類を渡された。
聞かれた、殆ど聞かれてた。…多分、絶対。同僚と無言で肘で突き合った。
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