どきどきするのはしかたない

「おはよう」

「あ、うん、おはよう」

今日も仕事だ…。
課長はもう、とうに仕事を始めているみたい。いつもと変わりないな。

「あ、浮気?」

「えっ?」

…何。

「憧れの課長だって、いつまでもそうやって見てていいの?今の涼葉は、うちの課長が現実じゃないの?
こっちよ」

首を持って捻られた。
え゙。思わぬタイミングで、顔を上げたうちの課長と目が合ってしまった。
…いや、違うし。こんな事してたら、うちの課長にだって誤解を与えてしまう…。
課長、ちょっと止まってる。…固まってるが正しいか。

「お、おはようございます」

「…おはよう」

あ、動いた。
こっちは、いい加減、固定されたこの手を離して欲しい。

「おはよう、だって」

声を低くして真似たつもりだろう。
…もう。勘違いしないでって、…強く否定してなかったからいけないのか…。
…はぁ。…憧れ、…現実かぁ…。それもちょっとどうなの?うちの課長に失礼なんじゃないの?

「あのね、違うって言ってるでしょ?…勘違」

「お待たせしました。えっと、一課の…こっちか」

…え?…七草さんだ。
誰かが手を上げて呼んでいる。

「あー、こっちこっち。ななくさ、朝からごめん。月曜から張り切っちゃったら、ケーブルの爪、折っちゃったみたいでさ、悪い。嵌りが悪いって思ってさ、摘まんだらパキッて」

「張り切ったかどうかは知らないけど…、はい、…終了」

「悪いな、こんな直ぐに終わる雑用みたいな事で」

「いや、これも仕事だから。結局、嵌りが悪いと通信にも影響が出る。朝一からパソコン本体が不具合ってなるよりマシだろ。繋ぎ直せばいいんだから苛々しなくて済む。だけど、これももうかなり古いタイプだよな」

「あー、助かった、有難う」

「おう、じゃあ」

席の間を通り抜けて、こっちに来た。

「おはよう、愛徳」

「あ、おはようございます」

いきなり挨拶に来るなんて…。驚かさないで欲しい。
頭に軽く手を置かれた。
…え?

「今日、飯、来いよ」

え゙っ?
な、何を言ってるのです?

「じゃあな」

「あ…え?」

えーー?!ちょ、ちょっと、ちょっと、…えー、何、言って…小さい声だったから聞こえて無いかな。

「ちょっとちょっと、え、何、今の、なんて言ってたの?ねえ、何て?」

「ぇえ?あ…ああ、えっと、…足、もう大丈夫かって」

…聞こえて無かったのかな。ふぅ…セーフ。

「そうなの?…ふ~ん、よく知ってるね。てか、…親しげだった…」

その目、止めて。勘ぐらないで。

「あ、うん。足、痛めてた時、エレベーターで一緒になった事があって。だから、それでじゃないかな?」

正確にはうちのエレベーターだし、それ以前の問題。私に起きた事は何もかも知ってるし。

「にしても、…頭に手を置くなんてねー」

「な、何…」

「何でも無~い。仕事、しよ?」

「う、ん」

何か思ってる。絶対、また良からぬ事を想像している。私って、最近情報提供し過ぎじゃない?
それより…事件だ。これは、プチパニックだ。もう…。会社で何してくれてるのよ。
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