どきどきするのはしかたない

ピンポン。

「お、来たか。入れよ」

「違います。…会社であんな…頭に手を置くとか、来いとか、どういうつもりですか?どうかしてます」

ご飯のお誘いに応えた訳じゃない、文句を言いに来たんです。

「まあ、入れよ」

「結構です」

「飯、食ってかないのか?」

「そんなんで来たんじゃありませんって言ってます」

「あー、だったら、朝、断っといてくれないと。もう愛徳の分、わざわざ作ってあるのに」

「そんな事言われても、あの状況で、返事も何も、出来ないに決まってます」

「なんで。行くか行かないか、言うだけだろ」

「…返事はそうでしょうが、言える訳無いじゃないですか」

「どうして?愛徳は公に課長と何かあるって、誰か知ってるのか?
あ、俺と何かあった事も、誰か知ってるのか?」

「そ、それは、どっちも誰も知らないと思います」

何…言ってるんですか…もう。

「飯に誘っただけだ。それに、あんなに近くで言ったんだ。
愛徳の近くにいた女子にだって、何言ったか、はっきり聞こえてなかったはずだ」

…確かに。ドキドキする程近くで。
少し屈んで、耳の近くで言われたんだ。

「とにかく。勿体ないから、食べるだけ食べてくれ。食べて直ぐに帰ればいいだろ」

…。

「…腹、減ってるだろ?
今から作って食べる事を考えたら、目の前に出来てる物が並んでるんだ。想像して天秤にかけろ、どっちがいいんだ?」

…。

「まあ、意地を張らずに、さ。お願いします、食べてください。これでも駄目か?」

…。

「お願いされたら嫌、とか、思ってるだろ。だったら、持って帰って食べるか?」

…。

「洗い物が出来てしまうぞ?ここでパパッと食べた方が、ご馳走様でしたで終わる」

…。

「悩んで迷っているなら入れ。嫌なら延々話も聞かず、とっくに帰ってるはずだろ」

…、あ、…確かに…。本当だ。人って可笑しい。じゃない。私が、だ。
どうであれ、話は聞き続けていたなんて。腑に落ちてしまった。

「フ。だろ?思い当たったか。全く、意固地だな。ただ飯を食う事に、なんでそんなに拒否しようと思うかねー。おっと、またこんな事を言ったら、逆らおうとするな」

「…クス。…はぁ、よく、解りますね…」

もういいか…。確かに出来てるご飯を想像してしまった。お腹も空いてる。ご飯だけなら…。

「ああ、愛徳の事は知ってるって言ってるだろ?」

「…ご馳走になります」

「ああ、入れ。あぁ、部屋の鍵はちゃんとして来たのか?」

「大丈夫です。帰ったそのままで来ましたから」

「そうか。いつも衝動的だな」

え?…。あ、…。

「とにかく、お邪魔します…」

「ん」
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