どきどきするのはしかたない
…七草さん。
私は…全然進歩がない。結局、こうしてふらふらと部屋でご飯をご馳走になってしまったし。
例えご飯だけだとはいえ、人の部屋、しかも二人きり。課長が居るのに、そうする事が良くない事だって、それも解ってる…。上手くまた引き込まれたと、人のせいにしてるところもある。…はぁ。
バッグから鍵を取り出そうと手を入れた。
…あれ、…無い、…無い?…あれ。えー!?
七草さんの部屋で中からこぼれ落ちたのかも知れない。
…仕方ない。
ピンポン。
「あの~、すみませ~ん、愛徳です。鍵、落ちてなかったでしょうか」
何となく気不味いのは承知の上だ。
カチャ。あ。
「…愛徳。どうした、鍵って、部屋のか」
「はい、部屋に入ろうとバッグの中を探したら無くて…すみません。ないですか?」
「ちょっと待ってろよ、中、見てみるから」
「はい。…すみません」
…無かったらどうしよう。落としたとは思えないから、ここに無ければ、多分、会社のロッカーの中に置いて…ロッカーも鍵をかけ忘れているんだ。
「部屋の中、めぼしい辺りを見たけど無いぞ。ポケットとか、全部見たのか?」
「解りました、有難うございました」
「あ、おい、大丈夫なのか?無かったら部屋、入れないだろ」
簡単にそうですね、なんて返事をしてはいけない…。無い事が解ったらそれでいいんだから。
「はい、会社、戻ってみます。多分、会社のロッカーにあるはずですから。すみません、お騒がせして」
「おい、愛徳、待て…」
急がなきゃ。今なら、まだ誰か残ってるくらいの時間だし。
はぁ、…良かった、あった。
本当、馬鹿みたいにおっちょこちょいなんだ…。
鍵穴に差したままだったなんて。
ちょっと遅くなって、帰る事ばかりが優先してしまって…はぁ、慌ててうっかりしたんだ。もう、…嫌になる。これからは別々にしておいた方がいいのかな。
バラバラにするとそれはそれで、また置き忘れたり、こっちの鍵が無いとか、探すはめになるかな。
何となく、フロアを覗いてみようと思った。…課長、まだ居るかも知れない。
声を掛けなくても見るだけでも顔を見たい。
明日は休みで見えないし。…何を、いつまでも、こんな事をしているんだろ。
明かりが点いていた。ゆっくり顔だけで覗いて見た。
居た。
…居たけど…一人じゃなかった。