特別な君のために

奏多先輩が何も言わないから、私は顔を見ないまま、語り続ける。

「妹の障がいがわかったのは、私が小学校へ入学した頃でした。
以来、我が家の中心は妹です。
妹が過ごしやすいように、少しでも成長できるように、パニックを起こさないように、危険な目に遭わないように」

「それ、大事だよね。まずは安全の確保って、俺もいつも思ってる」

……俺も、いつも?

その言葉にはっとして、奏多先輩の顔を見た。

普段通りの、穏やかな表情だった。

そっか、奏多先輩は大学で福祉を学んでいたはず。だから……。

「私はいつも、妹に気を遣って生活していました。
鍵はいつだって二重ロック。刃物は手の届かないところに置く……って、今では私より大きくなっちゃったんですけどね。
話し言葉だけだと伝わりにくいから、マカトンサインっていう手話のようなものも覚えたし……でも、それが今回はあだになっちゃって」

「どうして?」

「スマホを貸してって言われた時、断って両手でバツ印を作ったんです。その隙に私のポケットから勝手に持って行かれて、追いかけたらこうなりました」

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