特別な君のために
よし、逃げちゃダメだ。突撃しなくちゃ。

「あのねお父さん、私、まだどんな仕事をしたいのかっていうのは、決まってないの。大学に入ってからゆっくり考えるのじゃダメかな?」

するとお父さんは、食べ終わった食器を重ねながらこう言った。

「だいたいどういう方向へ進みたいのかっていうことくらいは決めているんだろう? 例えば、お父さんはビルを建ててみたくて、一級建築士の資格を取るための大学……工業大学へ進んだ。お母さんは……」

お父さんが、話を続きをするよう、お母さんに促す。

席に座ったお母さんが、ゆっくりと思い出すように語り出した。

「お母さんはね、旅行会社に勤めたかったの。英文科で勉強して、ツアーガイドになろうと思ったんだけど、新入社員のうちは窓口業務ばかりでね。でも、そこでお父さんと出会えたから、今となっては良かったと思ってる」

ちょっと照れながら、お父さんとのなれそめまで話してくれた。

……知らなかった。

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