特別な君のために
「……色んな旅行会社、みどりの窓口、空港の窓口へ行ったけれど、その中で、お母さんの接客が一番良かったから」
「さすがお母さん! エリートビジネスマンの心をそうやって掴んじゃったんだ!」
お母さんは照れながらも、まんざらでもない顔をして、こう言った。
「お父さんだって忙しそうなのに、いつもきちんとお礼を言ってくれたの。それに、窓口に来るお父さんっていつもドロドロの作業服だったから、エリートビジネスマンには見えなかったわ」
「……会社名とロゴの入った作業服だったんだけどな」
「あ~、お母さん、そういうところは鈍いから仕方がないよ。でも、逆に言えば、どんな立場の人も平等にいい接客ができてたってことだよね? それ、すごいかも」
私が褒めると、お母さんが赤くなった。そして。
「私達のことはいいから、美冬の将来のことを話し合いましょう」
と言って、両親の恋バナは終了した。
ついに、この時がきた。
奏多先輩と約束したし、そろそろ逃げ隠れできない時期だし。
脱走しないで自分の将来と向き合わないと。