伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます

どうやら、オーガストがというよりはドロシアのことを疑っているようだ。
ひとまず安心したものの、今捕まってしまっては結局猫のオーガストと服が見つかってしまう。

そもそも魔女狩りの時代から、魔女を決定づける証拠というものはない。捕まって殺された魔女の大半は濡れ衣だ。
なにかしらの理由をつけられて、魔女認定をされてしまったらドロシア自身の身も危なくなる。

騒ぎ立てるビアンカに絶体絶命だと思ったその時、オーガストがドロシアのドレスの裾から姿を現した。


「ひっ、なにこれっ」


突然現れた猫に、ビアンカは目を丸くして見入る。ドロシアも恐る恐る彼のほうを見ると、彼は瞳の色をいつもよりも赤くそめ、毛が逆立つような異様な空気を纏ったまま、呪文のような言葉をつぶやいていた。

言葉はよく聞き取れない。ただ、どこか音楽のように耳に残る。
やがて、ドロシアの正面に座り込んでしまっていたビアンカは、体を硬直させた。
目が虚ろになり、口は半開き、尻尾を立てたオーガストの口ずさむ文言を、いつの間にか口の中で反芻している。


「ビ、ビアンカさま?」


反応はない。不安になってドロシアはオーガストを振り返る。


「オーガスト様、これはいったい……」


彼は瞳をいつもよりも赤々と燃え上がらせながら、ドロシアの声など聞こえないようにビアンカを睨みつけている。その姿に、なぜかぞっとして、ドロシアは息を飲んだ。

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