伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「そろそろ参りましょうか。ドロシア様」
「そうね。ねぇチェスター、こうして地元から離れた土地にお嫁入りする私にとって、お話できる人がいるってとても嬉しいことだわ。どうかこれからも仲良くしてくださいね」
ドロシアが差し出した手を、チェスターはまじまじと見た。ドロシアとしては握手を求めたつもりだったが、彼はふっと笑うと、恭しく持ち上げ甲へキスをする。
「こちらこそ、これからもよろしくお願いいたします。ドロシア様は可愛らしい方ですね。これならオーガスト様のかたくなな心も解かされるかもしれない」
「旦那様はそんなに偏屈なの?」
「偏屈……というのとは違うと思いますが。オーガスト様はあまり人を信用しておられないのです。さあ、そろそろ参りましょう。きっとオーガスト様が待ちくたびれております」
チェスターに促され、ドロシアは再び馬車に乗り込んだ。
チェスターと話したことで、ひとりで考え込んでいた時に募っていた不安もなんとなく晴れてきた。
ホッとして背中をクッションに預け馬車に揺られていると、今度は眠くなってきた。
(あと少しなのに……)
そう思ったけれど、迫る来る睡魔に逆らえずにドロシアは目を閉じてしまった。