伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
服の汚れた部分を払い、手を洗ってから、すました顔で執務室へと向かう。
「お父様、ドロシアです」
「おお、待っておったぞ。どこに行っていたんだ」
「どこって。屋敷の蔦をとっていたんですわ。誰かさんが全く働いてくださらないので」
嫌味の一つも言ってみようとしたが、父親は自分のことを言われているとは全く思っていないらしい。
いきなり立ち上がると両手を広げてドロシアを抱きしめた。
「喜べ! お前にもようやく良縁がやってきた」
「え? 良縁って……結婚?」
予想外な申し出に、ドロシアは目を丸くする。その後、怪訝そうに父親を見つめる。
(まさか……ふさぎ込みすぎて気でもふれたんじゃないでしょうね)
持参金の出ない貴族の娘を望む男などそうそういるはずがない。
例えばドロシアが世間に名をとどろかせるほどの美貌の持ち主だというならば話は別だが、赤毛にそばかすのはねっ返りの娘ときている。とても彼女を見初めて……という話はないだろう。
「どういうこと? お父様、正気ですか。夢でも見たんじゃありません?」
「正気に決まっている。ぜひお前を嫁に迎えたいとおっしゃってる方がいるんだ。もちろん、持参金などいらない。むしろ支度金を用意するから是非にとおっしゃってくださっている」
「まあ、それは」
(……いい話すぎないかしら)
素直に喜んでいる父親を前に、一応口をつぐんでみたが、ドロシアは内心で眉をひそめていた。