伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「だから、その、あの」
そして申し訳なさそうに肩を落とす。
「猫伯爵……ノーベリ―伯爵だ。でも十五の歳の差なら問題ないと思わないか? 一度も結婚をせず生きるなんて悲しいことだよ、ドロシア。確かに伯爵は変な噂もあるけれど」
「その変な噂が問題なんですわ。偏屈で人前にはほとんど出てこないという話じゃありませんか。お友達は猫だけだというのでしょう?」
「確かに、私も伯爵の顔を見たことはない。だが、慈善事業の手伝いをしたいと申し出てくれたんだぞ? きっと本当は照れ屋ないい人なんだよ。私はそう思ったね」
「……ちっ」
人のいいだけの無能が、と口に出せないような雑言を舌打ちに込める。
それをちゃんと耳に捉えていた男爵は、怯えたような情けない顔をしながらドロシアの両手を握りしめた。
「頼む、ドロシア。我が家のためにもお前のためにも、これ以上の話はないと思う。……せめて一度だけでも伯爵に会ってみないか?」
「まあ、お会いする程度なら?」
「伯爵は自領からは出たくないとおっしゃっていてな。一度会うにもそちらに行かなければならないんだ」
ならば行ったが最後戻れないかもしれないではないか。
つまり、行くからにはちゃんと結婚を覚悟しろということだ。