伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
しかし、そのうちにくすぐったさを感じて目を開けると、目の前のオーガストが猫化していくところだった。
さっき猫化したばかりだというのに、頻繁過ぎないだろうか。
「……ごめん」
すっかり猫の状態になったオーガストはバツが悪そうにつぶやく。
「いいんですけど。どうして? 話すので疲れさせてしまいました?」
「……とても恥ずかしいんだけどね。僕は最初の妻と結婚して以来、名前だけの妻しか娶っていない。だから、女性とこういう関係になるのは実に八十年ぶりくらいなんだ。キス一つするのにこんなにこんなに心臓が激しく鳴るものだったかと、驚いているんだよ」
「まあ」
「……君との子供が欲しい。だがこの調子では時間がかかるかもしれないね」
尻尾を垂らして情けなさそうに言う彼をドロシアは抱き上げた。
「要は慣れるためにスキンシップが必要ということですね。じゃあ、私がずっと抱いていますから、一緒に森を散歩しましょう?」
「いや、重たいだろう。それに、途中で人間に戻ったら困るし」
「体を隠す布を持って歩けばいいじゃないですか。もう秘密はないんでしょう? だったら何も隠さないで。私、オーガスト様と一緒にいたいです」
「君って子は……本当に可愛い。ああ僕は、最期にしてこんな幸福を掴んでいいのか」
「すぐ死ぬようなこと言わないでください。あなたは私と一緒に天寿を全うするんでしょう? まだ時間はたくさんあります」
「……そうだね」
オーガストの声が曇ったことに、この時のドロシアは気付かなかった。
ただ、オーガストの秘密を全部教えてもらえて、自分がそれを受け入れられたことに興奮していたのだ。