伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます

やがてトンネルのようになった木々を抜け、クローバーの芝生へと足を踏み入れる。
過去の出来事を聞いてからだと、差し込んでくる木漏れ日が神々しいものに感じられた。


「ここが、オーガスト様のお父様とお母様の眠る場所なんですね」

「ああ、他にも家族同然に過ごしていた使用人たちもいる。……怖いかい」

「どうして? 私は家族を大切にする人は好きです。森の中にこんな空間を作るのはさぞかし大変だったでしょうに」


死んだ人間が何人いたのか分からないけれど、芝生の範囲は広い。オーガストと残された人間だけで穴を掘るには相当の労力が必要だろうと思えた。


「もともとここは比較的開けていた空間だったんだけどね。それでも残っていた木を倒し、穴を掘り……結構時間はかかったなぁ。それも、百年たてば何の跡かなんて分からないくらいにはなる」

「時は……形あるものを全て風化させてくれるんですね」

だけど、心の傷はきっと癒えてはいないだろう。目の前で父や母を殺されたのだ。その絶望は計り知れない。

もし自分なら……とドロシアは思う。
いっそ一緒に死んでしまえたほうが幸せかもしれない。
だとしたらオーガストは自分に長すぎる生を与えた実母と使い魔のことをどう思っているのだろう。

考えているだけでいたたまれなくなってきて、ドロシアは手を組んでお祈りを始めた。


(オーガスト様のお父様、お母様。私がオーガスト様を幸せにできますように。どうか応援してください)


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