その笑顔が見たい
幹線道路の騒音にその声は消され、葉月はエントランスの中に入っていった。
葉月を追って走り出す。
玄関の自動ドアが開き切る前に体を滑り込ませながら、もう一度葉月の名を呼ぶ。
「葉月!」
その声に立ち止まり、振り返る葉月は俺を見つけて一瞬驚いたが、すぐに嬉しそうに笑った。
俺の大好きなその笑顔。
その笑顔が見たくて葉月のそばにいたかったのに。
葉月の後方から忍び寄る黒い影。
その人影は手に何か光る物を持ってまっすぐ葉月をめがけて来た。
葉月に狙いを定め、一直線に。
「危ない!」
そのあとはスローモーションの映像を見ているようだった。
俺が葉月に全速力で駆け寄り、身構えた葉月を抱え込む。
と同時に背中から脇腹に激痛が走った。
さっきまで聞こえていた雑音が一瞬止まる。
が、すぐに悲鳴があちらこちらから聞こえてきた。
「なんで、なんで私のお婿さんが刺されたの? 悪い本木さんを刺したのに。どうしてーーーー!」
最後は悲鳴のように叫びその場に崩れ落ちた紗江を警備員が取り押さえた。
それを見た途端、体中の力が抜けて、抱え込んだ葉月ごと倒れた俺を入れ替わるように葉月が抱きかかえた。
「翔ちゃん、翔ちゃん!誰か、救急車呼んで!!!!やだ、翔太、翔太!」