その笑顔が見たい
オープン席があるカフェで今見てきた映画の話をしていたかと思ったら、紗江は職場の人の話に移してきた。
営業で会っていた人たちはほんの一部で紗江の職場の人の噂話は、正直言って興味も面白みも何もない。知らない誰かの話をされても退屈なもので集中できず、つい葉月のことを考えてしまう。
「…って言われちゃった。私たちの事、話しても良い?……翔太さん、聞いてる?」
「えっ?あ、ごめん。何を話すの?」
「その…付き合…こうして翔太さんと会ってる事」
付き合っているというにはまだ自信が無いんだろう。
「誰に?」
少し強めに言葉を放つ。
「…職場の同僚に」
紗江の職場イコール取引先だ。
いくら担当から外れたと言ってもリスクにつながるような事はしたくない。
「もう少し時間が経ってからにしたら?」
本音を言わずさらりとかわす。
「そうだね」
付き合っている事を否定されず、ただ付き合いをオープンにする事を先送りにされたと解釈したのか、紗江は嬉しそうに頷いていた。
家を出てくる時から気乗りしない今日のデート。
紗江と会えば、それなりに彼女と楽しい時間が過ごせて葉月のことを考える時間がなくなるだろうと思っていたが、それは逆効果だった。
食堂の「本木葉月」さんが、あの葉月とはまだ決まっていない。
ただの同姓同名なのかもしれない。
けれど今、頭を占めているのは、あの彼女と葉月が同一人物であってほしいという細やかな希望。