その笑顔が見たい
紗江と俺の前にある飲み物は、しばらく前に飲み干されていて、カップの底にはコーヒーのシミが広がっていた。
「出ようか」
頃合いを見て、店を出る。
「うん」
嬉しそうな紗江の顔を見て、なんとなくこれ以上は一緒にいるのに苦痛を感じていた。
「送るよ」
「えっ?」
「ん?」
まるで今日はこれ以上の時間を約束してないだろう?というような返事をする。
「あ、うん」
さっきの返事の時とはまったく違う。
けれど紗江はなにかを察したのか「わかった」と駅へと歩み始めた。
彼女のことだろう、自分の都合の良いように解釈したに違いない。
有楽町から1時間もかからず紗江の家の最寄駅に着く。
紗江の自宅は駅からは徒歩で10分と言っていた。
夕飯時で、まだ遅い時間でもない。
平日、会社から帰る時間よりも早い時間だろうから家まで送らなくても大丈夫だろう。
改札から出てところで「気をつけて」と紗江を見送るように立ち止まる。
「えっ?家に寄っていかないの?」
なるほど。
夕飯も食べずに「送る」と言った俺の気持ちを紗江は自分の家に来るという意味に捉えたのか。
まだ知り合って間もないが、彼女はそれなりに経験が豊富なのかもしれないと思うことが多々ある。それがどうこう言える立場ではないが、可愛くて純粋そうに見える第一印象とのそのギャップはまったく俺にとって魅力にはならなかった。