その笑顔が見たい
「うん、今日は帰るよ」
「……まだ、一緒にいたい」
甘えた声。
「仕事、持って帰ってきてるんだ。それ片付けたいから」
仕事を出せばそれ以上は何も言えないだろう。
仕事と私、どっちが大事なのなんていうものなら俺は離れていくと紗江のように頭が良く、それなりに恋愛経験値が高い女性ならわかるはずだ。
「そっか。残念」
スイッチが切り替わったように明るく答えた。
「気をつけて」
「今日はありがとう」
こうして紗江と別れ、元来たホームへと戻る。
紗江の家と沿線が一緒だが、まるっきり反対方向だったので、来た時よりも倍の時間電車に乗ることになる。
休日の夕刻。
電車の中は買い物客や学生、幼い子を連れた若い家族と様々な人たちが乗っている。
窓ガラスに微かに映る自分の顔をみつめながら葉月の顔を重ね合わせた。
女性関係では失敗はしたことがなかった。
本気にならない分、冷静に物事を進められていたから、攻め時や引き時を間違えたことはない。
しかし今はどうだろう。葉月の存在が膨れ上がってうまく感情をコントロールできなくなっている。このままじゃ、ダメだ。
どうにかして葉月に会って、胸にあるつかえたものを取り除かなくては。