その笑顔が見たい
ガタッと少し大きな音を立てて席を立つ。財布を握りしめ、オフィスを出ようとした時、桜木がそばにやって来て耳打ちする。
「翔ちん、付き合う」
「はっ?」
「だって、見て」
そう後ろを振り向くと、宮崎が財布を胸に抱え今にも付いてきそうな雰囲気を出していた。
「エリカ嬢が邪魔しないように、僕が翔ちんを守るから」
普段なら鬱陶しい桜木の申し出も、今ならありがたい。
もし宮崎がいつものように付いてくるのは遠慮願いたいからだ。
「悪いな」
「良いよ、良いよ、翔ちんと一緒なら夕食もおまけがつくしー」
「そっちかよ」
「ん?」
「ま、いいや」
桜木の言葉がどこまで冗談なのかわからない。
彼は頭の回転が遅いわけではない。むしろ早い方だし、空気を読むのも誰よりもうまい。
それに気がつかずに騙され、営業成績を掻っ攫われている他の社員は多いだろう。
とにかく今は桜木の言葉に甘えよう。
いざ葉月と会うとなると、心臓がもたないくらいドキドキしている。
まだ食堂にいる「本木葉月」が「はーちゃん」だと決まってもいないのに。