その笑顔が見たい

桜木とオフィスを出てエレベーターを待っていると、予想通り宮崎が財布を持ってやってきた。

「お食事ですか?」

「うん」

俺の代わりに桜木が答える。

「なら、ご一緒しても…」

宮崎が最後までいい終わる前に桜木が真面目な顔をして言葉をかぶせる。
声はいつもより低めだ。

「宮崎さん、今日は遠慮して」

「えっ?」

いつもソフトな物言いの桜木がきっぱりと言い放つ。
それに驚いたのか宮崎は何も言わなくなった。


「野村とじっくり話したいことがあるから」

「え、あ、…わかりました」

そのままエレベーターに乗った俺らからは扉が閉まるまで唖然としている宮崎が見えていた。

「翔ちん、どうだったー?僕、決めるときは決めるでしょ」

さっきは宮崎に対して、俺の事を野村と言っていたことに違和感が生じて、桜木にはもう「翔ちん」って呼ばれる方がいいやと思うほどまでになっていた。


「翔ちんはこれから大切なはーちゃんと会いに行くのに、エリカ嬢なんかに邪魔させないよ」


なんのドラマのセリフだと言いたくなるくらい芝居じみた言い方をする。


「はーちゃん言うな」


でも、葉月が良いって言うなら、桜木にだけは「はーちゃん」って呼ばせてあげても良いかもと葉月に会えるかもしれない高揚感で頭の中がおかしくなっていた。



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