その笑顔が見たい

ガクっと漫画みたいに肩を落とす桜木を見ながら、調理場から笑い声が聞こえて来た。
数人いる女性たちが楽しそうに笑ってる。目だけしか出ていないけれど、それはとても楽しそうな雰囲気だった。

「お前、笑われてるぞ」

調理場の中が良く見える席を探す。

「だってー」

肩を落としたまま、席に座って子供のように拗ねている桜木をなだめる。

「俺の半分やるから」

そう言った時だった。
白衣を着た女性がトレイの上に餃子を一皿持ってやって来た。


「…これ、どうぞ」

それは桜木のトレイに置かれた。


「あ、わ、ありがとうございます」


こうべを垂れていた桜木が水を得た魚のよう飛び跳ね、その女性に向かって喜んでいた。


「あ、葉月ちゃん」

桜木に気を取られていた俺は、その女性を桜木よりもワンテンポ遅れて認識する。
座ったまま見上げたその女性は目を細めて笑っていた。


近距離で見る彼女は間違いなくずっと会いたかった葉月だ。
右目にある泣きボクロを見てマスクを取らなくてもすぐにわかった。


「は、づき」


「…うん」


なんども夢見ていた葉月との再会。
映画やドラマみたいにおしゃれな街中でも、混み合った電車の中でもなく、会社の社員食堂。


ゆっくりと葉月はマスクを取った。
仕事柄なのか、それが葉月の素なのか、化粧っ気がまったく無い。
それでも大人になった葉月は…キレイだった。


「久しぶり」


「…うん」


「会いたかった」


「…うん」

恥ずかしそうに頷くだけの葉月を見て、もう抑えられなかった。
誰が見ていようと、会社だろうと、どうだってよかった。
おもむろに立ち上がり、葉月の手を取り食堂から連れ出していた。


「あ、翔ちん」

桜木の声だけが小さく聞こえていた。



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