その笑顔が見たい


「翔ちゃん、翔ちゃん、待って、仕事中!」

葉月の腕を掴んだまま、食堂を出て歩き続ける。
途中、すれ違った社員に怪訝な顔をされていたのもわかった。
葉月は調理場の長靴を履いているせいか、歩きづらそうにしている。
裏の非常階段まで連れ出して、やっと足を止めた。

「翔ちゃん、手、離して。会社だよ」

手を離すと葉月がまたいなくなりそうで怖かった。
それよりも何よりも十年も経ってからの再会なのに冷静に話をしてる葉月に苛立つ。


「いなくなるから。突然、いなくなるから…」

情けないことに涙が出て来た。
それを見られたくないのと、葉月を離したくないという思いで葉月を思い切り抱きしめた。
葉月の前ではいつだって甘えられる。

「翔ちゃん、ダメだってば。誰かに見られたら問題になるよ」

「いいよ」

「よくないよ」

無理やり体を離す葉月がどこかへ行かないように、また手を繋ぐ。

「これくらい良いだろ。小さい頃はずっとこうしてた」


「いつの話ししてるのよ。中学生になったら、目も合わせてくれなくなっちゃったじゃない」

中学生になった頃から葉月を女性として意識し始めて、妙に恥ずかしくなっていた。

「ごめん」

手を離さずにいる葉月も涙声になっていた。
目にはいっぱいの涙をためている。


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