その笑顔が見たい
「十年も離れていた罰」
と握っている手に力を入れる。
「…ごめん」
「葉月が謝ることじゃ無い」
「うん」
「会いたくて、会いたくて、でも会えなくて…もう会えないかもって諦めていた」
「私も」
「嘘つけ、食堂で俺がいるの知ってただろ」
「あ、はっ」
あの頃と同じような無邪気な笑顔を見せた。
やっぱり。葉月はずっと俺のことを見ていたんだ。
いつから?
「私、もう戻らなきゃ。怒られちゃう」
「あ、悪い」
「翔ちゃんも残業でしょ?」
「いや、その…」
残業はこじつけで葉月を探すための夕食だった。
それを誤魔化すのと葉月とまだ離れたくない気持ちが合間って出た言葉
「仕事、何時に終わるの?」
「んー、8時くらいかな」
「一緒に帰ろ。聞きたいこと話したいことが山ほどある」
正直、今すぐにでも葉月を連れて帰りたい。
しかしお互い勤務中。
社会人としての常識は二人ともわかっている。
「…」
葉月が少しためらいながら「うん、わかった」と頷いた。
さっきまでの高揚が覚め出すと急に現実的になる。
「あ、桜木…」
「桜木、さんって翔ちゃんといつも一緒にいる面白い人?」
「そう」
置き去りにしてきてしまった。
それにラーメンセットも。
「どうするかな」
食堂に戻りながら逡巡する。
帰りはさすがに手をつなぐことはしなかった。