その笑顔が見たい
桜木と上野と一緒に食堂から戻って来るとまだ宮崎が席で仕事をしていた。

「戻りました」

礼儀として挨拶をする。

「お帰りなさい」

一番可愛く見える角度を知っているのだろうか。必ずと言っていいほど、こちらに向く顔の角度が同じだった。向きがそのままの笑顔を普段なら無視するのだが、今日はすこぶる機嫌がいい。


「まだ終わらないの?」

そう聞くと宮崎は嬉しそうに返事をした。


「そうなんですぅ」


「あとどれくらいかかるの?」


帰り時間を合わせられたら困る。
それとなく様子を伺うと反対に質問で返された。


「野村さんはどれくらいで終わるんですか?」


やっぱりな。


「そうだな、終電までには帰りたいね」


「あー、そうなんですね。お手伝いすることがあったら言ってください。まだしばらくいるので」


「ありがとう。でも柳さんの仕事、優先して」


「了解でーす」

イソギンチャクのようにどこにでもくっ付いて来られてはたまったもんじゃない。
しかもやっと、やっと会えた葉月と約束をしているのに邪魔なんてされたくない。
なら、どこかで待ち合わせれば良いと言われそうだが、葉月とは1分でも1秒でも早く会いたい。



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