その笑顔が見たい
何回目かのエレベーターの到着で、葉月を見つけた。
ハッと息を飲む。

さっき食堂で会った時は、頭に白い帽子を被っていて、髪の毛は全て包まれていた。
汗をかいていて、化粧も取れていたようだったし、マスクをしたいたから、唇には色がなかった。ほぼ素顔だったが、今は違う。

肌は血色が良くなっていて、ぽってりした唇にはピンクの艶っぽい色が重ねられている。
細身のジーンズに白いシャツ。足元はスニーカーだった。

聡が言うようにほっそりとしているが、シンプルな装いが女らしさを浮き立たせていた。
大人になっていることを改めて気づかされる。

同僚と一緒のようで何か話をしていたが、別れてその場で立ち止まっていた。
連絡先はまだ教え合っていない。
葉月は辺りをキョロキョロして、一つため息をついた。
エレベーターは二機とも上昇している。社員出口には守衛室に人がいるだけだ。

そのチャンスにスタスタと葉月の後方から近づき、葉月が振り返る前に腕を掴んだ。


「翔ちゃん!」


「おいで」


そのまま、何も話さず早歩きで駅とは逆の方向へと歩き出した。
駅にはまだ社員がいる可能性があるからだ。


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