その笑顔が見たい
会社から少し歩いた大通りでタクシーを拾い葉月を乗せる。

「ーー駅方面まで」

有無を言わせずに方向を決める。

「ーー駅って?」

「俺のマンションの最寄駅」

自分のマンションに連れて行こうと考えてる俺を警戒するだろうか?
落ち着いてゆっくり話せて人目も時間も気にしない場所。
帰りは車で送れば良いと思ってマンションに連れて行こうとしている。

葉月と一緒に行ける場所は他に思い当たらなかった。
やましい気持ちは、たぶん、ない。
今のところ。

十年ぶりに会っていきなり手を出そうなんてそんな節操もないことにならないはずだ。
それでも家に連れて行くなんて引かれるだろうか?
葉月の様子をこわごわと伺ってみる。


「翔ちゃん、一人暮らししてるの?」


「えっ?そこ?」


「ん?」


「普通さ、男の一人暮らしの部屋に連れ込まれようとしてるのに警戒しないのかよ」


「なんで!?だって翔ちゃんだよ」


警戒する方がおかしいというような言い草だ。
なんだよ、翔ちゃん、翔ちゃんって。まるで男だと思ってないような言い方じゃないか。

ま、それは後回しだ。
とにかく葉月に聞きたいことが山ほどある。話ししたいことが一晩じゃ足りなほどある。


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