その笑顔が見たい
「ゆっくり話したいから、とにかくうちに来て」

「…わかった。でも…大丈夫?」

「何が?」

「彼女とかいるよね?知らない女の人が家に入ったら怒られない?」

「…」

そういうのはいないとハッキリと言えない自分に腹がたつ。
後回しにしていた紗江のことが頭を過ぎる。
そんな俺の気持ちを悟ったように葉月が言う。


「やっぱり外で話す方が良いんじゃない?」


「いや、大丈夫。家には来ないから」


それは本当だ。紗江も今まで関係が合った女性の誰も家には入れたことがない。
だいたい相手の家か、ホテルだったから。


「…そっか」

葉月?どうしてそんな切なそうに微笑む?
まるで俺に女の影があることを悲しむような目をしてる。
そんな葉月が愛おしくて、すぐにでも抱きしめたくなるが、かろうじてそれはやめる。


まもなくして到着した駅。
ロータリーで降りてからマンションまでの道のりを歩く。
駅から徒歩10分もかからない。
どうしてか葉月に道のりを覚えてほしくて、駅で降ろしてもらった。
きっとこれから先、一人でもいつでも俺に家に来てほしくて一緒に歩きたかったんだ。


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