その笑顔が見たい
「良いところだね」
「そっかー?」
「少し…似てる」
「ん?」
「私たちが暮らしていたあの街に」
「…言われてみれば」
マンションを探す時、会社へのアクセスと間取り、そして家賃を重視していた。
街並みとか近所にスーパーがあって便利などの生活的な考慮はしなかった。
けれど無意識にそういう場所を見つけていたのかもしれない。
「おばさん達は今もあそこに?」
「うん」
「そっかー、懐かしいなぁ」
ゆっくり歩きながら、きょろきょろと辺りを見渡している葉月に歩調を合わせる。
20cmも背が低い葉月の歩幅と俺の歩幅じゃ、ただでさえ葉月が小走りになるのに、今は俺が住んでいる街に興味を持っているかのように、辺りを見渡しているのだ。
それが、なんとなく嬉しく感じる。
「翔ちゃん、また大きくなった?」
歩みを止めず斜め下から俺を見上げる。
計算されていない上目遣いにどきっとする。
大人の葉月は高校生のころと比べ物にならないくらい艶っぽい目をする。
「いつの話してんだよ」
相変わらずの照れ隠し。
「高校の頃?背はあの頃と変わらないけど、なんかガッチリした」
「そうかー?自分ではわからないけど。あー、聡も随分と筋肉質になってたな」
「あ、そっか、聡に会ったんだね」
そうだよ、聡と再会して随分経つと言うのに葉月と会うのはこんなに時間がかかった。
それも訳を聞かないと。