その笑顔が見たい

マンションに着く前にコンビニへ寄った。
夜九時過ぎのコンビニは自分たちと同じようにサラリーマンやOLが結構いる。
葉月が自分のそばから離れないように、一定の距離を保つ。

「葉月、何かいる?」


「うーんとね、アイス食べたい。翔ちゃんち、ここからすぐ?すぐなら買っていい?」


そう言いながら、アイスボックスへ向かう。


「ははは」


葉月の背中を追いながら変わらないなと思わず笑ってしまったら「何よ!」とプクッと頰を膨らませた。
葉月のアイスと、自分の欲しいものをカゴに入れ、レジに行くとスマホの着信音が聞こえて来た。



「あ、翔ちゃん、お会計ごめん、後で払うから」


そう言いながら、スマホを耳に当て店の外へ出て行った。
自動ドアが閉まる前に聞こえた葉月の声。


「あ、社長…」


派遣会社の社長に違いない。
そう言えば、俺が強引にここまで連れて来てしまって、連絡を入れている時間がなかったはずだ。レジで支払いをしている間も外で話している葉月が気になる。
こちらに背を向けて、電話なのに頭を下げている。
他の男と話してる葉月の顔が自分の知らない女に見えた。

< 81 / 138 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop