王様と私のただならぬ関係
 



 はあー、セミナーの準備疲れた、と思いながら、戻ってくると、また、あの部屋の前に、彫像が居た。

 い、生きてる?

 生きてない?

 生きてないっ?

 此処に人が居るのにっ。

 人の気配が近づいて来てるのに、振り返りもしないしっ、と思いながら、つい、窺い見ていると、側に居た、あの可愛らしい此処の住人さんと目が合った。

 おっかなびっくり、二人を見ながら、
「……こんばんは」
と言うと、彼女は、

「こんばんは」
と返しながら、横に立つ彫像のようなものを手で示し、

「あの、生きてます」
と言ってくれた。

「……あ、ああ、そうですよねー」

 生きてないわけないですよねーっ!

 親切な人だっ!

 わざわざ教えてくれるなんてっ、とほっとしながら、

「ではっ」
と笑顔で頭を下げて部屋へと戻る。

「ただいま帰りましたー」

 玄関によく磨かれた靴があったので、そう言いながら、リビングに入ると、
「俺より遅いとかどういうことだ。
 浮気か?」
とソファに座る男が新聞を閉じながら訊いてきた。
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