あの日から、ずっと……

 機材部へ向かう途中で、泰知が廊下の先に見えた。

 私は、慌てて廊下を曲がるが、又、出荷部の前だ。

 わたしがドアを開けるのをためらっていると、出荷部のドアが開き井口さんが出てきた。


「どうしたの?」

 井口さんの言葉に、どう答えていいか分からず黙ってしまった。


「……」

「立花なの事だろ?」

「えっ……」

「知っているよ、偶然見ていたから……」

「いえ…… その……」

「ねぇ…… 俺と付き合わない? そうすれば、立花も嫌がらせしなくなるよ」

 井口さんの顔がグッと近づいてきた。

 確かにその通りではあるが…… 

 井口も男らしくもてそうな男だが……


「おい! こんな所で何してる?」
 
 泰知が、井口さんの肩を掴んでいた。


「主任には関係の無い事ですよ……」

 井口が泰知の手を払った。


「関係無くないよ! 芽衣が困っているだろ?」

「困っている? 俺は助けているつもりですけどね」

「どう言う事だ?」

「あんたのせいで、宇佐美は辛い思いをしているんだ! 自分の遊んだ女の始末ぐらいちゃんとしろよ!」

「はっ?」

「おかげで周りはいい迷惑なんだよ。エリートだかなんだかしらんが、あっちの女、こっちの女にいい顔するのは勘弁してくれよ!」


「なんだと!」

 泰知が井口さんの作業着の襟を掴んだ。


「ちょっと、辞めてよ!」

 私は必至で、泰知の腕を押さえた。


「芽衣、行くぞ!」

 泰知が私の腕を掴んだが、その腕を井口さんが掴んだ。

「あんたのそういう態度が、宇佐美には迷惑なんだよ! 自分の周りなんとかしてからにしろよ!」

 井口の言葉に、泰知は私の腕を離した。

「わかった……」

 泰知は、背を向けて歩いて行ってしまった。

「俺、宇佐美の事、遠慮しないからな!」

 井口さんが泰知の背中に向かって叫んだ。


 振り向いた井口さんは、ニコッと笑って私を見た……

「あっ…… あの……」


「大丈夫だよ…… 立花の事はそのうち落ち着くよ……」

「えっ」


「今度、一緒にメシでも食いに行こう」

 そう言うと、井口は出荷部の中へと戻って行った。




 機材部へ行き城田課長を探していると、ちらっと保科さんと目が合い私は頭を下げたのだが、保科さんから目を逸らされてしまった。

 ちょっと悲しかったが保科さんにとっては、その方がいいのだろうと諦め、城田課長を探し歩いた。


「すみません、城田課長…… 至急確認をお願いしたいのですが……」

 私は資料を課長に出した。

「これで大丈夫だが、もう一度、納入日の確認だけ頼む」


「はい。お忙しいところ、すみませんでした」

 私はぺこりと頭を下げた。


「仕事なんだから、そんなに気を使わなくていいよ。頼んだよ」

 城田課長の大きな口が、皺だらけの笑顔に変わった。

 城田課長が、保科さんに目をやり、軽くため息を着いていた。
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