春が来たら、桜の花びら降らせてね
「冬菜、裏庭行かね?」
そんなふたりをスルーして、夏樹君が私の手を掴む。
裏庭は私が初めて、夏樹君の名前を呼んだ大切な場所だった。
断る理由もなかった私は、頷いて、夏樹君と一緒に体育祭を抜け出す。
その間に会話は何ひとつなかった。
それでも、沈黙を気まずいとは思わない。
だって、私たちは繋いだ手の温もりで、心で、お互いの気持ちを伝え合っているから。
そして、人気のない裏庭へとやってきた。
そこでようやく私は、呪いが解けたかのようにふっと体から力が抜けて自然に笑顔を浮かべることが出来る。
「夏樹君、ありがとう」
ここは、夏樹君と話せた経験があるからか、2人きりということもあって、スムーズに声が出る。
私たちは、自然と導かれるように裏庭の木陰にあるベンチに座った。
ザワザワと、青々とした木々が風に吹かれて笑っている。
顔を上げれば木漏れ日が幾千の星のように輝いていた。
ここは、私たちだけの箱庭のように美しく、安らぎに満ちた場所に感じた。